
赤と灰
古書店の改装では、表の売り場だけでなく、路地に面した裏口の扉も塗り直しました。くすんだ灰色のコンクリートの壁に、少し落ち着いた赤を一色だけ。完成後、この扉を雨の日と晴れの日、朝と夕方に撮り比べたのが「赤と灰」という小さなシリーズです。
なぜ赤だったのか
裏口は、本の買い取りに来るお客さまが使う入口です。路地の奥にあって見つけにくく、以前は「どこから入ればいいのか」と電話で聞かれることがよくありました。目印になる色を一つだけ足そう、と店主さんと相談して決めたのが赤でした。
ただし、鮮やかすぎる赤は路地の静けさを壊してしまいます。塗料の見本を実際の扉に貼り、朝・昼・夕方の3回、それぞれ写真に撮って見比べました。最終的に選んだのは、少し茶色を含んだ、れんがに近い赤です。
天気で変わる色
撮り比べてみると、同じ扉の赤が驚くほど違って見えました。
- 晴れた昼:灰色の壁が明るくなり、赤はやや沈んで見える
- 雨の日:壁が濡れて濃くなり、赤がいちばん鮮やかに浮かぶ
- 夕方:西日で壁も赤みを帯び、二つの色の境目がやわらぐ
雨の日にこそ目印として機能する、というのは撮ってみてはじめてわかったことでした。
色を一つだけ足す
空間に色を足すとき、私は「一つだけ、小さく」を基本にしています。白や灰色、木の色が中心の場所では、ひとつの色がよく効きます。数を増やすほど、それぞれの色の力は弱くなります。
改装後、裏口についての問い合わせの電話はほとんどなくなったそうです。色選びに迷っているお店の方は、塗る前に実物の場所で見本を撮ってみることをおすすめします。写真にすると、目で見るより冷静に比べられます。